先輩の説明が半分もわからない。逆に自分の書いたコードを人に説明しようとすると、うまく言葉が出てこない。そんな経験はありませんか。
いまエンジニアのあいだで「ELI5」という言葉が広がっています。むずかしい話を、その分野を何も知らない人に向けて説明しなおす考え方です。
この記事では、ELI5とは何か、なぜ今あらためて注目されているのか、そして明日から使える手順までをお伝えします。
結論を先に言います。ELI5は説明のテクニックではなく、自分の理解の穴を見つける検査キットです。だから、教える側よりも学ぶ側にこそよく効きます。
ELI5とは?「5歳の子に話すつもりで」という合言葉
ELI5とは「Explain Like I’m 5」の略で、5歳の子に話すように説明してほしい、という意味の合言葉です。もともとは海外の掲示板で使われていた言い回しでした。
なぜこの言い回しが役に立つのか。理由は、くわしい人ほど、自分にとって当たり前のことを省いてしまうからです。
経済コラムニストのティム・ハーフォード氏は、専門家にとって自明なことが、聞き手にはまったく通じないことが多いと指摘しています。説明が下手なのではなく、前提の共有が抜けているのです。
ここで効いてくるのが「制約」です。ハーフォード氏は、絵本作家のドクター・スースがたった50語の単語だけで一冊を書き上げた例や、よく使われる1000語だけで大型ロケットの仕組みを説明した図の例を挙げています。使える言葉を減らすほど、説明はかえって伝わるようになります。
身近な例で考えてみましょう。「デプロイ」を「作ったものを、みんなが使える場所に置くこと」と言い換える。これがELI5の第一歩です。

なぜ今ELI5が話題なのか?AIが説明役を引き受けたから
言葉自体は昔からありますが、いま話題になっている理由ははっきりしています。生成AIが、説明役を何度でも引き受けてくれるようになったからです。
これまで、かみ砕いた説明を得る方法は、くわしい人に聞くことだけでした。相手の時間をもらう行為なので、同じことを三度も四度も聞くのは気が引けます。
実際に2026年8月、Claude Code向けの「ELI5」という拡張機能が紹介されて注目を集めました。テーマを渡すと、長い文章ではなく、大きな図と少ない文章にまとめたページを返してくれる仕組みです。
使い方はとてもシンプルで、調べたいテーマを一行そえるだけです。図をしっかり入れてほしいときは「図解を最低3つ入れて」と足すと安定します。
つまりELI5は、心がけの言葉から、いつでも呼び出せる道具に変わりつつあります。
ELI5の使いどころは?新社会人エンジニアに効く3つの場面
ELI5は「全体像をつかむ場面」に絞って使うと、いちばん効果が出ます。細部を削って輪郭を残す道具だからです。
新社会人エンジニアにとって相性がいいのは、次のような場面です。
- 配属直後に、担当するシステムの全体像をつかみたいとき
- 障害が起きたあと、原因から影響までの流れを時系列で整理したいとき
- 営業や企画の人に、自分の仕事を説明する下書きを作りたいとき
とくに三つめは、思っている以上に評価につながります。技術のわかる人だけに伝わる説明は、社内では半分しか届かないからです。
地図を思い浮かべてください。旅先でまず開くのは、細い路地まで載った地図ではなく、駅と目的地の位置関係がわかる案内図のはずです。ELI5はその案内図にあたります。
ELI5が向かない場面は?図でわかった気にならないために
一方で、ELI5は正確さが求められる場面には向きません。仕様の最終確認、細かいコードの検証、セキュリティの監査などがこれにあたります。
理由は単純で、ELI5は情報を削ることで成り立つ手法だからです。削られた部分に、実は大事な条件が入っていることがあります。
たとえば「この処理は非同期です」という一言が消えるだけで、動く前提そのものが変わってしまいます。天気予報で「傘はいらない」という結論だけ覚えて、降水確率を見ないのと似ています。
おすすめの順番は決まっています。全体像はELI5でつかみ、細部は公式ドキュメントやソースコードで確かめる。この二段構えなら、速さと正確さの両方が手に入ります。
ELI5で鍛えられるのは、説明力という一生モノのスキル
ここが本題です。ELI5のいちばんの価値は、AIに説明してもらうことではなく、自分でやってみることにあります。
なぜなら、うまく言い換えられない部分が、そのまま理解できていない部分だからです。制約は、自分の穴を映し出す装置として働きます。
ハーフォード氏は、一部の人のために生まれた工夫が結局は全員の役に立つ、とも書いています。字幕やレバー式のドアハンドルがその例です。説明も同じで、新人向けに整理しなおした文章は、ベテランにとっても読みやすくなります。
実践は小さく始めて大丈夫です。日報の一行、レビュー依頼の説明文、朝会での報告。そこで一度、専門用語をやさしい言葉に置きかえてみてください。
この積み重ねが、数年後に効いてきます。技術を知っている人は多くても、それを誰にでも伝えられる人は、いつの時代も足りていません。
障害報告こそELI5:運用現場で筆者が新人に課している訓練
筆者は運用・監視の現場に10年以上いますが、ELI5がいちばん効くのは勉強ではなく障害対応の報告だと感じています。障害の第一報は、システムを知らない人(お客様の窓口担当や他部署の管理職)にも伝わらなければ意味がありません。「DBのコネクションプールが枯渇して」ではなく「処理の順番待ちの席が満席になり、新しい依頼を受けられない状態です」と言えるか。ここで差がつきます。
筆者のチームでは、新人に次の訓練をしてもらっています。
- 担当システムの構成を、技術用語を1つも使わずに3分で説明する(説明相手は筆者)
- 詰まった箇所こそ、本人が構成を理解していない箇所。そこを重点的に教える
- 慣れてきたら、障害の模擬報告を「専門家向け」と「非エンジニア向け」の2通りで作る
一方で、たとえ話には副作用もあります。筆者も新人時代、監視の仕組みを「体温計のようなもの」と教わって分かった気になり、しきい値と監視間隔の設計を長く誤解していました。たとえ話は入口としては最高ですが、設定作業や設計判断をする段階では、必ず正確な用語と公式ドキュメントに戻る。この往復がELI5を「わかった気になる道具」ではなく「理解の検査キット」にする条件だと考えています。
まとめ:ELI5は理解の穴を見つける道具
- ELI5とは「5歳の子に話すように説明して」という合言葉で、制約をかけることで伝わりやすさが上がる考え方です
- 生成AIが説明役を担えるようになり、いつでも呼び出せる道具として使えるようになりました
- 全体像をつかむ用途に向く一方、仕様の確認や検証には向かないので、細部は必ず一次情報で確かめます
まずは今日の仕事の中から一つ、専門用語を選んでみてください。それを後輩に話すつもりで言い換えてみる。そこからが、あなたの説明力の第一歩です。
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